核融合エネルギー研究開発部門
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高い耐熱性を有する中性子遮へい樹脂を開発
− 高温環境下における軽量かつコンパクトな中性子遮へい体への利用に期待 −
平成17年3月24日
日本原子力研究所

 日本原子力研究所(理事長 岡俊雄)と株式会社間組(社長 新名順一)は、300℃の耐熱性能を有する中性子遮へい樹脂を共同で開発した。この樹脂は、フェノール樹脂と炭化ホウ素でできており、中性子遮へい樹脂として原子炉施設や放射線医療施設で幅広く使用されているポリエチレンと同程度の中性子遮へい性能がある。高温環境下における軽量かつコンパクトな中性子遮へい体への利用が期待される。

 プラズマ保持用の真空容器が300℃程度の高温に保たれる核融合プラズマ実験装置では、真空容器近傍で用いる中性子遮へい材には高い耐熱性能が必要である。また、プラズマを急速に停止するような時には真空容器に強い電磁力が加わるため、高い耐熱性に加え安定した強度が要求される。これまで、その要求を満たす性能を持つ中性子遮へい樹脂はなく、コンクリートや金属と水などを用いて装置と少し離れたところで大掛かりな遮へいをしている。真空容器近傍等の狭隘な場所での遮へいに利用できる新たな材料が得られれば、スペースの有効利用、遮へいの効率化を図ることができる。

 原研と間組では、フェノール樹脂と炭化ホウ素を練り混ぜて成型した素材に着目した。練り混ぜる遮へい材料の成分量を原研が放射線遮へい計算により評価し、フェノール樹脂材の選定、成型温度、圧力等を間組が試験して合成方法を決定した。この方法で製造した樹脂の中性子遮へい性能は15cmの厚みで中性子透過率が約1/10で、ポリエチレンに匹敵するものであった。さらにこの樹脂は、従来のエポナイト(耐熱温度約200℃)やポリエチレン(耐熱温度約80℃)より高い耐熱温度300℃を有し、その強度は、遮へい体として原子炉建家で用いられているコンクリート(室温)を上回る性能を有する。

 核融合実験装置で、各種高性能測定機器の中性子遮へい、ポート等開口部からの中性子のストリーミング(突き抜け)防止に活用できる他、核燃料容器等の原子力分野の設備・機器で耐熱性能が要求される部位や狭隘な箇所への適用も期待している。

 この成果は、日本原子力学会2005年春の年会(3月29日〜31日、東海大学)において発表予定である。



補足説明

1) 開発した中性子遮へい樹脂(図1参照)


図1 本中性子遮へい樹脂の実物写真

2) 耐熱性能と遮へい性能を兼ね備えた中性子遮へい樹脂の開発
 本遮へい樹脂は、耐熱性・耐久性に優れているフェノール樹脂と、低エネルギー中性子に対する良好な吸収性能をもつホウ素を混ぜ合わせることによって開発された。開発に際して、フェノール樹脂の材料成分の比率やホウ素の含有量について、予め放射線遮へい計算によって中性子遮へい性能を評価し、最適な値を見いだすとともに、成型固化させるための過程における加熱温度、および加圧値の最適な組み合わせを、様々な試作を通じて決定した。

3) 中性子遮へい性能試験結果
 本中性子遮へい樹脂の遮へい性能はカリフォルニウム中性子源(252Cf)の中性子に対する透過率によって評価した。結果は図2に示すように、約15cmの厚みで中性子透過率が1/10となっており、これは、同様にして測定されたポリエチレンとほぼ同程度の遮へい性能である。また、ホウ素等の含有量を決定するために予め計算で評価した中性子透過率と良い一致を示すことも確認された。
 比較のために遮へい体として一般的に用いられているコンクリートについても合わせて示したが、本遮へい樹脂はコンクリートの約2倍の遮へい性能がある。

4) 耐熱性能
 本中性子遮へい樹脂の耐熱特性は、JIS規格に準拠した荷重たわみ試験(JIS K 7191)により評価した。この結果、温度300℃においても有意なたわみ等の変形は観測されず、300℃以上の耐熱性能を有することが明らかとなった。表1に他の遮へい樹脂と耐熱性能を比較した結果をまとめた。代表的な遮へい樹脂であるポリエチレン、およびエポナイトと比較して、本遮へい樹脂が優れた耐熱性能を有していることがわかる。

表1 耐熱性能の比較

本中性子遮へい樹脂 ポリエチレン エポナイト
荷重たわみ試験によ
る熱変形温度(℃)
>300 60〜82 149〜185

5) 強度特性
 室温、および250℃環境下における強度特性を、JIS規格に準拠した引張試験(JIS K 7113)、曲げ試験(JIS K 7171)、圧縮試験(JIS K 7181)によりそれぞれ評価した。図3は、本遮へい樹脂の強度特性をポリエチレン、エポナイト、およびコンクリート(最近開発された耐熱コンクリート*、試験方法はJIS A 1108)と比較して示したもので、本遮へい樹脂が優れた強度特性を有していることがわかる(250℃環境下ではポリエチレン、およびエポナイトは軟化して熱変形を起こしてしまう)。



図3 本中性子遮へい樹脂と従来の遮へい樹脂の強度特性


*参考文献:J. Shimojo, et al., 'Development of New Type Concrete for Spent Fuel Storage Cask', 14th International Symposium on The Packaging and Transportation of Radioactive Materials (Berlin Germany, September 2004)

6) 軽量化、コンパクト化
 現在、中性子遮へい材料としてコンクリートが様々な原子力施設等で使用されているが、コンクリートで本中性子遮へい樹脂と同レベルの遮へい性能を満たすためには約2倍の体積、および2.3倍の重量が必要である(表2参照)。一方、金属は耐熱性能と強度特性に優れているが、例えば鉛や鉄で同レベルの遮へい性能を得るには、表2に示すように体積が5〜9倍、重量が20〜50倍に増大する。このため、狭隘な箇所や、重量のある遮へい材を保持する十分な構造材や基礎が設置できない場所等に使用する際には、本遮へい樹脂は最適である。

表2 遮へい性能と重量の比較

25%の透過率での
遮へい体の厚み(cm)
密度
(g/cm3)
同一の遮へい性能を
得るに必要な重量比
本遮へい樹脂 〜8 1.8 1.0
コンクリート 〜20 2.1(*) 2.3
〜90 11.3 56.5
〜50 7.9 21.9
(*)放射線施設のしゃへい計算実務マニュアルより

7) 本遮へい樹脂の応用の可能性
 核融合実験装置では、図4のように真空容器の周囲の狭い場所に様々な構造物が入り組んで配置されている。本遮へい樹脂は高温の真空容器にごく接近して設置できるため、真空容器と磁場コイルの間の狭い空間にも配置できる。今後、計測器を始め、中性子による発熱を極力抑制する必要がある超伝導コイルの遮へい材としての応用が期待できる。


図4 核融合実験装置(JT-60)

 また、本遮へい樹脂は様々な原子力施設へ適用する可能性が期待できる。例えば、使用済み燃料輸送容器は、燃料棒から発生する崩壊熱で輸送容器内部が高温となり、従来は、金属容器の中に樹脂やコンクリートを詰めて中性子を遮へいしているため、容器内の除熱構造で重量、体積がかさんでいたが、本遮へい樹脂を使用することにより全体の構造を軽量化、コンパクト化することが期待される。



用語解説

1) カリフォルニウム中性子源
 中性子を放出する代表的な放射性物質の1つで、放射中性子は、低エネルギーから10 MeV程度までの幅広いエネルギー分布を持っており、そのピークは0.5〜1 MeVの間にある。使い易さからw遮へい試験や人工衛星向け半導体試験などに、世界的に広く用いられている。

2)炭化ホウ素
 炭化ホウ素(B4C)はダイヤモンドに次ぐ高い硬度を持っている物質。ホウ素は、10Bと11Bの同位体があり、10Bは低エネルギー中性子を選択的に吸収する性質を持ち、原子炉の制御棒や減速材に使用されている。

3)エポナイト
 2002年12月に株式会社 間組が開発し、2004年5月に株式会社 千代田テクノルより販売を開始した中性子遮へい材。医療施設や原子力関連施設における遮へい体として用いられている。エポキシ樹脂をベースとしているため耐熱温度は約200℃である。