核融合エネルギー研究開発部門
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JT-60、高圧力プラズマの長時間維持に成功
− ITERの長時間燃焼を先導 −
平成16年6月14日
日本原子力研究所

 日本原子力研究所(理事長 岡 俊雄)は、臨界プラズマ試験装置(JT-60)を用いて、国際熱核融合実験炉(ITER)で必要とされる高圧力プラズマを、世界最長の24秒間にわたり維持することに成功した。今回の成果は、ITERの主目的であるプラズマの長時間燃焼の実験を先導し、その実現を確実にするものである。

 核融合炉の出力はプラズマ圧力(温度×密度)の自乗に比例するため、高い出力が求められるITERにおいては、磁場によって閉じ込められる高い圧力のプラズマを長時間維持することが大きな研究目標となっている。そのためには、プラズマ圧力の低下をもたらす「磁場の乱れ」を起こさせないように、プラズマ中の電流分布に応じて、プラズマ中の圧力分布を適切な形に保つ必要がある。
 電流分布は圧力分布よりもゆっくりと変化し、例えばJT-60の場合、圧力分布が1秒程度で一定に落ち着くのに対し電流分布が一定に落ち着くまでには10秒程度の時間を要する。これまで、世界のどの装置においても、ITER相当の高圧力プラズマの維持時間がこの「電流分布が一定に落ち着く時間」に達していなかった。そのため、ITERの長時間燃焼(目標維持時間:400秒以上)において、電流分布が一定に落ち着くまでに電流分布の変化に伴って磁場の乱れが発生する可能性が懸念されていた。

 JT-60では、昨年、制御系等を変更し、プラズマ加熱時間を従来の10秒から30秒に伸長した。さらに、本年の実験において、これまでに開発したプラズマ加熱位置を調整する技術を駆使することにより圧力分布を最適化し、「磁場の乱れ」が発生しない圧力分布を実現した。
 その結果、ITER相当の高圧力プラズマを「電流分布が一定に落ち着く時間」の2倍以上に相当する24秒間にわたり維持することに成功した。すなわち、ITER相当の高圧力プラズマにおいて電流分布が一定となる定常状態を世界で初めて実現することができた。今後さらに維持時間を伸長しても「磁場の乱れ」は発生しないと期待されることから、今回の結果はITERにおける長時間燃焼実験を先導し、その実現を確実にするものである。


補足説明

磁場の乱れの発生
 トカマクプラズマにおいては、磁場のかごを作ってプラズマを閉じ込めている(図1上)。プラズマの圧力が高くなると、磁場の乱れが発生しやすくなる。磁場の乱れが発生すると、プラズマが変形し、エネルギー(熱)が逃げて圧力が低下してしまう(図1下)。高圧力プラズマを維持するためには、この磁場の乱れを起こさせないことが最も重要な課題の一つである。


図1

図1 プラズマにおける磁場の乱れの発生


圧力分布の最適化
 プラズマ圧力を高めるために、加熱を行う。加熱する場所に応じて圧力の傾き(勾配)が形成される。圧力勾配が大きいほどプラズマ全体の圧力は高くなるが、磁場の乱れは発生しやすくなる。圧力の勾配が小さいと磁場の乱れは発生しないが、プラズマ圧力が高くならない。高いプラズマ圧力を得るためには、磁場の乱れが発生しない範囲でなるべく圧力勾配を大きくするように圧力分布を最適化する必要がある。
 今回の実験では、中性粒子ビーム入射によりプラズマの加熱を行った。これは、熱湯をぬるま湯へ注ぐように、高エネルギーの中性粒子ビームをプラズマ中へ入射して、プラズマを加熱する方法である。JT-60にはいくつかのビームラインがあり、それぞれプラズマの異なる場所を加熱することができる。プラズマの中心部のみを加熱すると、ピーキングした圧力分布となり、圧力の勾配が大きくなるので、磁場の乱れが発生しやすい(図2左)。一方、周辺部のみを加熱すると、平坦な圧力分布となりプラズマ圧力が高くならない(図2右)。中心部と周辺部の両方を適切な割合で加熱することにより、磁場の乱れが発生しない範囲で、圧力勾配を大きくし、高いプラズマ圧力を得ることができた(図2中央)。なお、磁場の乱れが発生しやすい領域はプラズマ電流の分布によって異なるため、最適な圧力分布は電流分布によって異なる場合がある。


図2

図2 加熱位置の調整による圧力分布の最適化


電流分布の時間変化
 今回の実験で得られた、高圧力プラズマを24秒間維持した放電の圧力指数(プラズマ圧力の指標;用語解説参照)と加熱パワーの波形(時間変化)を図3下に示す。この放電における圧力分布、電流分布の変化を模式的に図3上に示している。圧力分布は加熱開始から1秒程度で一定に落ち着く。一方、電流分布は加熱開始から10秒程度の間は変化し、それに伴って「磁場の乱れ」が発生しやすい位置も移動する(@→A)。その後は電流分布はほぼ一定となり、「磁場の乱れ」が発生しやすい位置も移動しない(A→B)。このように「電流分布が一定に落ち着く時間」が存在し、JT-60の場合10秒程度である。
 加熱当初に「磁場の乱れ」が発生しない圧力分布を生成し高いプラズマ圧力を得ても、その後の電流分布の変化に伴って「磁場の乱れ」の発生しやすい位置が移動したときに「磁場の乱れ」が発生する可能性がある。「電流分布が一定に落ち着く時間」を超えて「磁場の乱れ」が発生しなければ、その後は電流分布は変化しないので、もはや「磁場の乱れ」は発生せず、いくらでも長く高いプラズマ圧力を維持できると期待される。
 「電流分布が一定に落ち着く時間」はプラズマのサイズが大きいほど、またプラズマの温度が高いほど長くなるため、ITERでは300-400秒に達するが、ITERではそれ以上の時間の核融合燃焼を計画している。なお、圧力分布だけでなく、電流分布も最適化することが可能であり、それによってより高いプラズマ圧力を得ることができるが、ITERでは電流分布を制御しない状態で長時間燃焼を実現することを主目的としている。今回の実験結果は、圧力分布の調整により、電流分布を制御しなくてもITERで必要とされるプラズマ圧力を長時間維持できることを示したものである。


図3

図3 高圧力プラズマにおける電流分布の時間変化


JT-60のプラズマ発生時間、加熱時間の伸長
 昨年、プラズマの電流値、位置、加熱パワー等を制御するシステムの変更などを行い、プラズマ発生時間を従来の15秒から65秒へ、プラズマ加熱時間を従来の10秒から30秒へと伸長した。これにより、従来10秒以内に制限されていた高圧力プラズマの維持時間を10秒以上に伸長することが可能になった。


図4

図4 JT-60のプラズマ発生時間、プラズマ加熱時間の伸長


高圧力プラズマの維持時間の伸長
 これまでの世界のトカマクにおける高圧力プラズマの維持時間と、今回JT-60で得られた成果を図5に示す。横軸は維持時間(秒単位)で、JT-60における「電流分布が一定に落ち着く時間」(10秒程度)を縦の赤色の帯で示している。縦軸の圧力指数はプラズマ圧力の指標である(用語解説参照)。ITERで必要とされる圧力指数(1.8-2.0)を図中の横の黄色の帯で示している。これまでの世界のトカマクで得られていた上限(緑色の線)では、ITERで必要とされる圧力指数の維持時間は8秒以内であり、「電流分布が一定に落ち着く時間」に達していなかった。今回の結果(赤丸)は「電流分布が一定に落ち着く時間」の2倍以上に到達しており、ITER相当の高圧力プラズマにおいて電流分布が定常となる状態を世界で初めて実現したものである。


図5

図5 高圧力プラズマの維持時間の伸長